後半7分 シンプリシオ(C大阪)
セレッソに対してこういう表現ができるようになったかと驚く。総合力の勝利だ。チームの戦い方は徹底されていたし、それをサポーターの熱気が後押しした。17,489人という観衆は決して多くはないが、20,500人収容のはずのキンチョウスタジアムでは、日頃空いているオーナーズシートまでビッチリという「圧力釜の中」のような状態だった。その熱気がチームを動かした。
この日のスタジアムは、試合開始4時間前から異様な雰囲気だった。二つあるホーム用の待ち列は数百メートルも伸びていて、何分歩いても先が見えないような状態。選手たちが乗ったバスが近づくと、数百本の桜色のフラッグが秋空に舞い踊った。試合開始前から、サポーターは戦っていた。
スタメンとベンチ。藤本康太がケガから復帰、スタメンの右サイドはエジノで、杉本健勇はサブに回っている。システムは4-4-1-1で、柿谷曜一朗と山口螢の代表組も名を連ねている。
さて、このスタメンがでた時、4-4-2で行くのかという話もあったが、個人的には徹底的に広島のサッカー、守備は3-6-1、攻撃は4-1-5という「可変サッカー」を潰しにかかるのだなと感じた。それから、これはガマン比べになるな、とも。
それは、相手がボールを保持し、システムを4-1-5にした時のフォーメーションと、この4-4-1-1を重ねれば一目瞭然だ。
柿谷のところにセンターバック役の2枚、佐藤寿人もセンターバックの藤本、山下達也がつく以外はすべて1対1を作っている。しかも、パスの出どころ、攻撃のリズムを作る青山敏弘、高萩洋次郎、石原直樹の3枚にはシンプリシオ、扇原貴宏、山口螢というボランチが本職の選手がピッタリとついていた。
攻撃の際に、彼ら3人のパス、ドリブルから生まれるリズムこそ広島サッカーの心臓部。佐藤寿人の得点は、この3人が機能した後の結果にすぎない。 もちろん、単体での飛び出しも怖いけれど、精度さえ落とせば山下、藤本で弾き返せる。そういう計算だ。
ただし、これは両刃の剣でもある。こちらがボールを奪っても、攻撃の中心である3人は広島の核となる3人に近しい位置にいるのだから、これをまず外す作業をしなくてはいけない。それが攻撃を鈍麻させる。だから、このセレッソが作り出した息苦しい空間に、ガマンできなくなって下手を打ったほうが負けると踏んだ。セレッソにとっても博打だった。
実際、セレッソは前半の決定機はコーナーキックから山下のヘッド1回くらい。柿谷も自慢の飛び出しが出来ず、中盤に降りてボールに絡む機会が多かった。これが苛立ってだったのか、チームのコンセプトだったのか。多分、後者だと思う。
もし柿谷がトップに張り付いていたら、トップと残り9人のフィールドプレイヤーとの感覚が開きすぎて、両サイドの南野拓実やエジノは、ボールを運ぶというタスクだけで、あっという間にスタミナを失ってしまっただろう。
前半は覚悟以上にに息苦しい戦いで、終了間際には藤本まで負傷交代。ひたすらガマンの45分だった。流れは四分六で広島、シュートの精度に助けられた。
前半41分 |
そうして後半戦。柿谷が下がってゲームメイクしていた苦労が、やっと報われる時が来た。開始早々の7分、シンプリシオが持って上がって、柿谷がバイタルでボールを保持。タイミングよくボールをシンプリシオにリターンできた。この一瞬のスキをシンプリシオが確実に突いて先制!
ただし、セレッソはこの1点でイケイケにならず、慢心しないままゲームプランを徹底した。お互いの心臓部である3人を噛み合わさせて、窒息しそうになるような流れを維持させた。
これを遂行できたのは、山口螢と山下という驚異的な守備範囲とフィジカルを持った二人がいればこそ。佐藤寿人もらしい動きで何度かヒヤリとするプレーを見せたが、今までとは違っていた。高萩、石原もある程度は押さえ込めた。
セレッソは4-4-1-1になった時の定石として、スタミナが無くなった両サイドハーフを下げていく。後半19分には南野拓実が下がり、楠神順平が入る。
後半19分 |
楠神はいつものように、ボールを運び、プレーエリアを相手陣内深くに置くことを求められていた。しかし、天皇杯からの不調が続いていて、不用意なボールカットを受けることも多かった。ドリブラーの宿命ではあるけれど、ここが打破できなければ、同点、または負けている状態での効果的な切り札にはなれない。
後二つ、広島がとった千葉和彦を下げて野津田岳人を入れ、4-4-2にした交代と、後半35分のエジノから杉本健勇へのスイッチが試合を不安定なものにさせた。
後半35分 |
杉本に求められるのは、ハイボール、ロングボールを確実におさめること。しかし、これができなかった。エジノも効果的とは言い難かったが、杉本よりもボールロストは少なく、レヴィー・クルピの選択が間違いではないことが明白になってしまった。
また、相手が3-6-1と4-1-5の変則フォーメーションを破棄したことで、セレッソの守備があやふやになってしまった。誰が誰につくという意識が整理されず、強引な切込みを受けるとズルズル下がる悪癖がでた。
それでも、最終的には個の力で相手をねじ伏せることで、何とか逃げ切りに成功した。悪手ではあるけれど、詰みは詰み。結果が求められる最終3連戦を乗り切るためには、なりふりなどかまっていられなかった。
柿谷が完調ではなく、また満足に動けるスタイルではない中で、セレッソがセレッソらしく動けない中で、勝ち点3をチーム、サポーター、スタッフ、全員で奪い取れたことには千金の価値がある。横浜FMが勝ったため、後はこちらが2連勝、横浜FMが連敗をしない限り、優勝の目は無くなってしまった。けれど、それでも勝ちにこだわり、戦いぬくことを続けていこう。残り180分を走りぬけ、勝ち上がり、2013年のセレッソがどれほど強いチームだったのかを記録に刻もう。
こんな姿を、もっともっと見たいんだ。何度でも、何度でも。
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