ダービーまであと三日ですかい。はやいのー。誰だよ永遠に来ないとか言ってたヤツよー。出てこいよー。あっ、本当にいたんですか?スイマセン殴らないでくださいスイマセン。
…。
はぁ、疲れた。今日は疲れたぞー。疲れたついでに笑い話でも聞いていってよ。ある嫌われ者の中学生の話。
そいつは小さい頃から嫌われ者で、男子からはいじめられ、女子からは聞こえるくらいの小声で「キモイ」と言われたりしてた。まあ今思えばそいつは十分キモイやつなんだけれど、思春期の多感な頃にそう言われちゃ傷つくよな。それで明るく振舞えればいいんだけれど、それほど器用でもない。だからやむにやまれずそんな暗い日々を送ってたわけだ。
月日は経って中学三年生、卒業の日。そいつの中学校はとなりに桜の舞うでかい公園があって、卒業生は式が済むとそっちの公園に移り、下級生から「クラブご苦労様でした」と送り出されたり、「ずっと友達でいような」って住所の交換をしたり(当時はメールなんてなかったのよ)、まあ別れの儀式をするのが慣例となっていた。
そいつも「さすがに卒業式の日くらいみんな仲良くしてくれるよね」と思って、使い捨てのカメラを持ってきていた。クラスメートと一緒に写真を撮りたかったから。あんなにいじめられてても、やっぱり仲良くしてほしかったんだ。
「おい○○!」
「なに?(ちょっと期待)」
「オレこいつと一緒の写真撮りたいからこのカメラで撮ってくれよ」
「(僕とじゃないのか…、ま、いいや、そのうち呼ばれるよ)わ、わかった。いくよー」
しばらくそいつはクラスメートから指名をうけて写真を撮り続けていた。そいつが写真に写ることは無かった。でもいつか誰かが呼んでくれると信じて、シャッターを押してた。
そうするとクラスの女の子が一人、そいつの前にやって来た。
「○○くん。写真撮ってくれない?」
女の子の後ろにはクラスメート全員がいて、早く撮ってくれよー、とか言ってた。そいつは
「いよいよクラスメート全員と写真が撮れるかもしれない。僕が撮ったら、きっと次に誰かと交代して、僕もクラスメートと一緒に写真に写るんだ!やった!」
って内心飛び上がりそうなくらい喜んだ。みんなにいじめられないように、きれいに撮らなくちゃ。そいつは丁寧に丁寧に、シャッターを押した。
「○○くんありがとう」
さっきの女の子がこっちに近づいてきた。この子が次、僕の代わりに撮ってくれるのか。そいつはカメラを彼女に渡した。女の子は何の迷いも無く、笑顔で言った。
「じゃ、さよならー」
「えっ!?」
見るとクラスメート全員が、三々五々散らばって、友達どうしで話しはじめていた。そいつが写った卒業写真は一枚も撮られなかった。買ったばかりの使い捨てカメラも封を切ることさえなく、ポケットの中だった。みんなの写真係となったそいつは、ひとしきり皆のリクエストに応えると、もう用済みになって、声をかける人間は一人もいなくなってしまった。空気みたいなもんだった。そいつはその針の筵のような空間にはいられなくなって、誰よりも早く公園を出た。家に帰って、自分の部屋で呆けていた。ショックというにも酷い話だと思ったし、悔しいという気持ちすら持てないほど辛い気分だった。
だから卒業式のシーズンになると、そいつの気持ちはイラつく。青春を美化した卒業ソングを聞くと、いろんな意味で胸が痛む。みんなの「美しい青春」の下敷きになった人間の痛みなんて、その上に乗っているヤツは知ろうともしない。そんなヤツの邪魔をしてやると、さも正義ぶったツラで「なんでそんなことするんですか?」とアホな質問をしてくる。その質問にまたイラつく。一人だけ村八分にしておいて「なんでそんなことするんですか?」もないものだ。そいつは今日も黒々とした思念を抱えたままのた打ち回っている。
もし本当に「みんなで団結を」と唱えるんだったら、美辞麗句に酔ってないで、そういう村八分にしているヤツも呼ばないと看板に偽りがある。そういうヤツも入れろ、このトビラを空けてやれ。偽善者め。
あー、すっきりした。たまに毒をはかないと死にそうになるんだ。ゴメンゴメン。
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