8/08/2017

2017明治安田生命J1リーグ 第20節 C大阪 3vs1 札幌 #cerezo #photo #diary


仕事を覚える、というのはとかくわずらわしいものだ。「こういう時はこうする」という約束事がたくさんあって、新入社員や転職者は、最初の数日間は「はい、そうですね。」と相づちを打ちながらメモをとる。

「この約束事にはどんな意味があるんだろ?わずらわしいだけじゃないの?」

最初はそうぼやくことだってある。実際、オフィスワークではそういうこともあるしね。でも、おおよその場合、ある日ほとんどの仕事を覚えて、全体像が見えた時にパッと目の前が明るくなる。ああ、これはうまくできているな、どれが欠けてもダメだ、と。

今のセレッソは、まさにこんな状態だと思う。皆が全体像を掴んでいて、果たすべき役割りをしっかり把握している。やらなきゃいけないことを守り、その上にやりたいことを付け加えてプラスに変えていく。この完璧な勝利はダービーの敗戦を払拭するものになった。

スターティングラインナップ


GK、キム・ジンヒョン。DF、右から田中裕介、マテイ・ヨニッチ、センターバックのレギュラー、山下達也は引き続きケガで木本恭生が入る。そして丸橋祐介。MF、ソウザと山口蛍、二列目右には水沼宏太、左に柿谷曜一朗。FW、杉本健勇とリカルド・サントス、山村和也は足首に違和感を覚え、ベンチ外となった。

リザーブ、丹野研太、松田陸、藤本康太、関口訓充、福満隆貴、秋山大地、澤上竜二。松田と田中の入れ替えは守備の補強とターンオーバー、2つの意味がありそうだ。松田自身ウォームアップの際は至って元気だった。


開始20……3秒?9秒?


先制点はセレッソ、それも開始30秒足らず。スタジアムDJの西川大輔は試合後のヒーローインタビューで「29秒ですよ!」と言い、杉本は「23秒って聞いてます。」と答えた。それほど電光石火の攻めだった。


俺はこの試合のキーパーソンはリカルドだと見ていた。山村の代役として機能するかしないかで流れが決まると。


山村の長所はキープ力、相手と競り合っても負けない強さだ。彼がボールを受けるから、杉本が輝き、柿谷、水沼、清武弘嗣、福満らが前を向いてプレーできるのだ。リカルドにその役割ができるか、答えは「イエス」だった。

先制点はそのリカルドの突進から始まった。彼が相手を押しのけて侵攻すると、杉本はその押し広げられたスペースにスルスルと侵入していく。セレッソが、ユン・ジョンファン監督が望んでいたプレーをリカルドが実行した。ならば、杉本も自らが成すべきことを成す。リカルドが競り合ってこぼれたボールを拾い正確にシュート。先制ゴールは偶発的なものではなく、狙ったプレーがハマったもの。それは勢いもつくというものだ。

最前線のリカルドがボールを受けられる、そうわかれば他のメンバーも動く。特に左サイドは活発で、柿谷、丸橋の速攻は前半何度も決まった。


ソウザのFK


2点目はソウザの直接FKだった。


セットプレーはサッカーの一部ではあるが、流れから切り離して考える必要がある。FKはそれだけでひとつのスポーツと言ってもいい。キーパーは壁の枚数、位置を指示し、キッカーはそれを見てコースを考える。誰が蹴るのか幻惑させるために、複数のキッカーを立たせることもある。いろいろな要素があり、見ていてとても面白いものだ。

もうひとつ、欠かせない要素がキーパーの重心だ。たまに「なんであんなのが入るんだ」というFKがあるが、そういうのはキーパーの重心の逆をついたものが多い。

キッカーの位置を把握したい。壁を信頼し、壁を超えるコースを切っている。いろいろな理由があるけれど、たまにキーパーは重心を極端にずらしている時がある。ソウザのFKの際、札幌GK金山隼樹は壁の間を抜けてくる弾丸FKを意識していたはずだ。実際、ソウザはそういうキックを何度も蹴っているし。

サウザはそれをつぶさに見ていた。だから、いつもとは逆に、自身から見て右サイドにコントロールショットを放つと決めた。コースは甘かったが、金山の予想とは真逆だったから、あれほどアッサリと決まったのだ。


自らの居場所を見つけた杉本


さっきキーパーソンはリカルドだと言ったが、その恩恵を受け、最も輝いたのは2ゴールをあげた杉本だ。それに異論を挟む人間は先ずいないだろう。

杉本は素晴らしいフィジカルを持ち、技術も高い。だが接触ブレーを嫌がる傾向があり、加えて精神面のムラっけが足かせになっていた。

逆に言えば、接触プレーを減らし、メンタルコントロールさえできれば、彼はいくらでも輝ける選手なのだ。セレッソは今、山村、リカルドという盾があり、彼が活き活きとプレーできる場所がある。精神的な稚拙さも年齢とともに消えつつある。今までJ1、113試合で17ゴールだった選手が、今年だけでJ1リーグ戦21試合13ゴール、得点ランクトップを走る立派なストライカーだ。


ラインを深くとる堅守速攻型のチームなら、1トップには裏へ抜け出す天才、柿谷がベストだ。だが高い位置で守備ブロックを作る今のチームでは、杉本が点取り屋をするのが最適なのだと回答が出た。だからこそ、背番号8は左サイドで黒子に徹していられる。



もうひとつ、嬉しいシーンがあった。後半一点を返された、その後のことだ。

失点自体はとてもつまらないもので、守備陣とすれば精神的に苛立つシチュエーションだった。だがその時、杉本がセンターサークルでボールを保持しながら、チームメイトたちに「ここから、もう一度しっかりやろう。」と必死に声をかけていた。

ゆっくり間を取って、仲間の士気を立て直す時間を作る。スタンドの酔客のヤジに切れ、仲間に咎められていた人間が、今はチームの士気を高めるリーダー格に成長したのだ。俺は生まれて初めて、失点シーンで感動した。41年生きていれば、そういうこともあるのだな。


夏場の連戦はタフだ。特に攻守で貢献しなくてはならないサイドハーフはクタクタになる。柿谷、水沼が下がったのはプレーの質が落ちたこともあるが、水曜の清水戦に向けての温存という側面もあるだろう。ボランチのソウザにしても、ここで無理をさせることはないという判断だ。

月末、天王山となる鹿島戦を前に、清水、磐田、このアウェー連戦で取りこぼすことは出来ない。そんな強い意志が感じられる交代だった。

さあ、この夏は静岡に遠征だ。トップを快走し続けられるのか、初タイトルを奪えるのか胃の腑がキリキリと痛みだす季節が来る。しかし今は、この胃の鈍痛さえ快楽と感じられる。

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