延後10分 村田 和哉(C大阪)
PK
仙台 ○ ☓ ☓ ○
C大阪 清武○ キム・ボギョン○ 丸橋○ 扇原○
この勝利はみんなのもの。セレッソを愛する全ての者が戦った、価値などつけられない偉大な勝利。
スタメンとベンチは現時点でのベスト。播戸は自らのライフプランをかなぐり捨てて戦列に加わった。キム・ボギョンもフェイスガートをつけてのプレーにのぞむ。
試合開始時
前半 攻め立てるが…。
前半開始早々から、セレッソは飛ばしていた。今考えるとよくPK戦まで持ったものだ。1年間練磨を続けた3シャドーに扇原、山口蛍のダブルボランチ、両サイドバックが絡んで仙台をまくし立てた。
杉本もいつものゆるさというか、淡白なところが無くて、ガツガツとボールに絡んでいた。上本、茂庭の2バックも藤本が酒本に比べるとやや低めの位置でプレーしていたからか、比較的楽に攻撃を封じていたように見えた。2バックが2.5バックになっただけでも安定感は違う。フィールドプレーヤーが緊張感を持ってプレーしていたからだろう、キム・ジンヒョンの出番が殆ど無かった。
それでも試合は一方的なものにはならない。仙台が厄介なチームであることに変わりはなく、決定機は流れの中からの倉田とセットプレーの扇原の2度程度だった。
仙台の素晴らしさは、やはり守備、特に組織的な動きは凄みがあった。押し込まれた時は8人がゴール前に堅く張り付いて相手の攻めを跳ね返すし、少しでもスキがあるとラインを押し上げて強いブロックでこちらのパスを絡め取ってしまう。
相手にもいいようにさせはしなかったものの、完全にこちらに流れを引き込んだわけではないもどかしい前半。カップ戦では先に失点した方が圧倒的に不利、それをよく理解した攻防だった。
後半 仙台のジョーカー
後半も立ち上がりからセレッソが攻めるが、仙台も落ち着いていなし続ける。今度はお互いがサポーターの待つゴールに向かうので、スタジアムも自然と熱気を帯びてきた。
観客はわずか5316人であるけれども、はるばる仙台から寒風を突っ切って乗り込んできた一騎当千の仙台サポーターと、長居スタジアムのバックスタンド裏まで列をなして開門を待った生粋のセレッソサポーターの5316人、気温が低いのも手伝ってか跳ねる跳ねる。
先に動いたのは仙台で、広くピッチを動きまわっていた太田を下げて、同じ運動量が武器の武藤が入ってきた。
この武藤が実にいやらしいプレーでセレッソを苦しめてくれた。普通ならあきらめるような競り合いも果敢に挑んでくるし、DFラインでボールを回しているところに必ず突っ込んでくるから落ち着かない。
セレッソもよく体をはった杉本から播戸にスイッチ。
後半29分
播戸はこんな寒空の下でも半袖のユニフォーム、風の子のようにピッチを動きまわる。
しかし播戸を入れてもなお、仙台の堅守は揺らがない。どれだけ時間が経とうが、前線と最終ラインの間が30メートル程度に収まっているのだから本当に頭が下がる。
激しいプレスを続けてきた代償として大黒柱の梁勇基とDFチョ・ビョングクがパンクしたが、戦い方は変わらない。セレッソも高く保ったラインの裏を突こうと俊足の村田を入れるが、いいパスが入らず、生かし切れない。
後半42分
結局胸踊る場面も肝を冷やすシーンも殆ど無いまま、ピリピリとした小競り合いが続き、勝負は延長戦に持ち越されることになった。
延長前半 エアポケット
120分間を見なおしても、ミスらしいミスはあの一度きりだった。それでも、やられる時はやられるのだな。仙台に押し込まれながらも、なんとかしのいだかと思った刹那に、わずかに連携がズレて、右サイドの奥でボールを失ったのだ。
慌てて立て直すにも相手の出足が早く、最初の決定機を決められてしまった。ゴールは仙台の前線に活気を与え続けた武藤のもの。何度もボールに食らいついてきた努力が、仙台に大きな1点をもたらした。
堅守速攻に専心した仙台がどれほど厄介かは、Jリーグを見た人ならば知っているだろう。その上にこちらは高さというオプションがなく、引かれた時に必要なカードを失っていた。絶望がキンチョウスタジアムを覆った。
延長後半14分、倉田アウト、大竹イン。キム・ボギョンがボランチに。
延長後半 窮地を救った「末っ子」
不利とわかっていても、もう攻めるしかない。この後半で1点をとれなければ、この1年が、そしてレヴィーとの5年間が終わる。与えられた15分という時間は、その意味を考えればあまりにも短いものだった。
セレッソは何もかもかなぐり捨てて、攻めて、攻めて、攻めつづけた。ひたすらパスを回し、泥臭くボールに食いつき、苦しいところからでもシュートを放つ。
堅い仙台の壁に、11人が全員でぶつかり続けたその末に、あのゴールが待っていた。播戸、大竹、清武、キム・ボギョン、丸橋。皆レヴィーが手塩にかけて育てた、信じて使い続けたプレイヤー。最後に待っていたのがそうした「レヴィーズチルドレン」の末っ子、村田だったのには、何か意味があったのかも知れない。
お世辞にもいいシュートではなかった。振った足がボールに当たった、という表現がより近い。しかしそのボールには魂がこもっていた。だから、ネットをゆらせたのだ。同点、同点、同点!タイムアップ5分前に、歓喜が待っていた。
値千金のゴールが、沈みかけたスタンドに火をつけた、そうして、勝負はPK戦に。
PK戦 みんながセレッソ。
PK戦が始まる前、コールリーダーが声を振り絞ってゴール裏に呼びかけた。
「大旗の人はゴールの裏に!みんなもゴール裏に固まって!」
みなが肩を寄せ合い、仙台のPKではゴール裏でフラッグを振り、マフラーを回した。セレッソのPKでは集中を邪魔しないようにじっと耐えて動かない。
この時、セレッソはひとつだった。どこからどこまでが選手で、どこからどこまでがサポーターで、などという線は無かった。全員で守り、全員で攻めた。仙台のPK、2本目がそれ、3本目がキム・ジンヒョンの網にかかる。その度にゴール裏が、スタジアムがうねった。
最後のキッカーは扇原だった。いろいろな経験を経て、強く、たくましいボランチとなったセレッソのナンバー2、外すはずがない。揺れるネット、再び、歓喜。
俺たちはまだ生きている、俺たちはまだ戦える。みんなで戦っている限り、レヴィーとありたいと願っている限り、負けはしない、死にはしない。今は、そう信じられる。
最後に
こんなに熱く、心打たれる試合を観られたのも、仙台、そして仙台サポーターという強い存在がいたから。
試合後、気落ちしているはずの彼らから、セレッソ大阪コール、そしてレヴィーセレッソのコールをもらった。
サッカーをよく知らない人達は、サポーター同士というと、ギスギスした、すぐ小競り合いを起こす連中のように考えているけれど、それは間違いだと声を大にして言いたい。
日本のサッカーは、つらいことも多いけれど、温かく、素晴らしい。アジアを体験してなお、いや、経験したからこそ、そう言える。仙台のみなさんありがとう、また来年もいい試合をしよう。
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