11/15/2016

本厄落としに多摩へ行く。 #cerezo #photo #diary

乗り換え駅、京王線北野駅から朝日を見る

誕生日というのは、この世に産み落としてくれた父母と、ここまで生かしてくれた全ての人に感謝する日なんだ。自分で自分にご褒美なんかやれない、やる金も暇もない。

代わりに苦役を与えてやった。四十路の体で夜行バスに揺られ、僅かばかりの睡眠でサポートするチームを記録し、また僅かばかりの睡眠でそれを公開するのだ。11月12日のヴェルディ戦は、それはタフな道程だった。

2016年11月11日22時15分 近鉄百貨店あべの本店前


長居駅から地下鉄で三駅、大阪の南の玄関口天王寺に出る。ここから多摩の西の果て八王子に出る夜行バスがある。

他の夜行バスは大体名阪、東名を抜けるので新宿に南から入るが、コイツは中央道を通るので諏訪、甲府と抜けて東京の西端に出るのだ。早朝八王子に着けば、京王線を東進し味の素スタジアムの最寄り飛田給駅に着く。これが、前泊や車中泊以外で最も早く味の素スタジアムに着く手段だ。


2016年11月12日06時36分 京王八王子駅


夜行バスに乗るのも慣れてしまって勝手がわかってきたけれども、老体にはこたえる。それでも夜行バスを使うのは、交通費の節減と開放感のためだ。

長い間狭いバスの中、さらに狭いシートに体を滑り込ませ、僅かばかりの睡眠を得る。シートを倒し、腰のあたりに畳んだコートを挟み、フットレストを使って体を横にすると、少しは楽になる。浅い眠りをむさぼるあいだ、うつらうつらと目を覚ましては時計を見やり、地図アプリを確認し、あと少しだと言い聞かせてまた眠る。

そうして朝を迎えると、ああ、この退屈も終わるのだと明るい気持ちになる。早朝の、あまり土地勘のない街に降りた時の喜びもまた格別だ。すぐに近くのコンビニで野菜ジュースとパンを買い、それを食みながら旅行の予定を確認する。八王子駅には予定よりも30分早く着いた。そのまま京王線に乗り、二度乗り換えをして程なく、朝日を浴びる味の素スタジアムにたどり着く。地面は昨夜の豪雨で濡れていたが、その分空気は澄んでいて、空は明るく輝いていた。


2016年11月12日07時20分 味の素スタジアム


飛田給駅には味の素スタジアムを本拠地とする2チームのフラッグが飾られている

味の素スタジアムは京王線飛田給駅から北に歩いて5分程で着く。交通はJ1、J2を合わせても至便な部類に入るだろう。

ペデストリアンデッキよりメインゲートを見やる。下層スタンド最上段と同じ高さにある

メインスタンドの真ん前に中央ゲートがあり、そのままコンコースに入れる。スタジアムのコンコースはこの一層だけで、ここから下層スタンドの最上段に入る。また、ここから階段を登れば上層スタンドの最下段に出る。規模こそ違うが構造自体はV・ファーレン長崎のホーム、トランスコスモススタジアムに非常によく似ている。座席のほとんどを屋根で覆っているところも同じだ。

この構造のメリットは、上層スタンドに続くゲートを開閉するだけで、イベントの規模に応じた運用ができるところにある。

全席一層のヤンマースタジアム長居では、規模を縮小してイベントを行うにしても、封鎖した箇所をロープで区切ったり、そこに警備員を立てなければならない。つまり、その分のコストがかかってしまう。一方、味の素スタジアムでは、ゲートを閉鎖するだけで、小規模なイベントにも簡便に対応ができる。コストもそれほどかからない。

下層スタンド最前列より。

東京ヴェルディの集客力では上層スタンドを開放することはまずなく、この試合も下層スタンド一層のみを使用することになった。それでも収容人数は2万5000程度。集まった観衆は8240人で、閑散とした雰囲気は拭えなかった。


2016年11月12日14時30分 味の素スタジアム


Jリーグの殆どのチームは試合開始2時間前から入場開始となる。だが、ヴェルディの場合は試合開始1時間30分前まで入場を我慢しなければならない。恐らくではあるけれど、少しでも人件費を安くあげようという考えがあってのことだろう。

J2は地方のクラブが多く、都市部に集中するJ1のクラブよりも、地域性やクラブの考えがよりダイレクトに現れることが多い。ヴェルディの場合は「いかに生き残っていくか」という事が第一にあり、そのためには多少の不便はガマンしましょうというメッセージがそこかしこに散りばめられていた。

南側の屋根は透過テフロン幕で日光を通す。旗に日差しが当たっている。

例えば、スタジアムグルメの一部はスタジアム外にあり、再入場ができないため入場前に買っておく必要がある。一度入場するとスタジアム内に常設されている有り体の売店でしか食べ物を買う事ができない。また、トイレも一部は閉鎖されている。さらに言うと、バックスタンドのアウェイ寄り1/3は解放されていない。どれもこれもコスト削減のための工夫だろう。

画像右端でカメラを構えているのは恐らく球団スタッフ。コンデジなのも「コスト削減」のためだろうか

このような不便さがあってもなお、クラブが存続すること、そこにチームがあり、試合があり、そうした日常が続くことが大事なのだという考えが強く根付いているように感じた。何度もクラブを襲った経営危機が、クラブやそれを支えるサポーターたちの脳裏に焼き付いているのだろう。試合後、ホーム最終戦のセレモニーが行われたが、経営陣の口からは「何の憂いもなく試合に臨めるありがたさ」が何度も口をついて出てきた。これもまた文化と呼ぶべきなのかもしれない。いくらか寂しい気がしないでもないけれど……。

2016年11月12日22時30分 西川口某ホテル


都内のホテルはどこも割高で、夕餉とホテルは埼玉で揃えた。さいたまには行き慣れているので、馴染んだ店があったりする。飲食店の当たり外れの多い関東ではそれがありがたいのだ。

撮った画像をノートパソコンに取り込み、補正をし、ネットに上げる。安物のパソコンでもっさりとした動作だが、なるべく省力化に努めることで睡眠時間を確保した。


調布飛行場の近くだからだろうか、照明が暗く難儀する。


2016年11月13日12時03分 東京発岡山行きひかり741号車中


旅をしていて一番のご馳走というと、電車の車中で食べる駅弁を思いつく。その土地土地の名物が揃った駅弁と酒を買い、これを飲み食いして旅の終いを祝う。

東京駅では毎度深川めしを買うが、今回は浮気をして新発田三新軒の「えび千両ちらし」を購入。勝ち試合のお祝いだ、1300円も安いもの。


この駅弁は当たりだった。蓋をあけると薄く甘めの味付けがされた卵焼きが敷き詰められている。それをどけると、その下にはえび、うなぎの蒲焼き、いかの一夜干し、酢じめしたこはだとガリがあり、その下にはおぼろ昆布、そして一番下には上品な味付けの酢飯が敷かれている。とても凝った作りだ。

具材そのものは単体でもうまく、お酒のアテとして成立する。これをつまんでハイボールをぎゅうとあおると生きててよかったという気持ちになる。酢飯と合わせて押し寿司のようにしてもうまい。卵焼きもあわせて三層丸ごとをほおばっても豪勢だ。卵焼きと酢飯で玉を食べた気になるのも通ぶっているようで楽しい。

いろんな具材、いろんな楽しみ方ができる駅弁というのもそうない。折尾駅のかしわめし、金沢の魚介系の駅弁も大好きだけれども、この駅弁はそれに割って入る魅力があった。後で調べるとテレビやら何やらでとても評価の高い駅弁だったが、食べて納得のいく値打ちものだった。

2016年11月16日午前01時15分 自宅の寝室


こうして行きたいところに行き、見たいものを見て、食べたいものが食べられるのは、健康だから、人並みの暮らしができるほどの社会性が保てているからだ。それは俺一人の努力だけではどうしようもない。産み育ててくれた両親や支えてくれる家族、友人、縁あってともに仕事をしている方々。そうした何十人何百人という人達の支えがあるからこそだ。

残念ながら、俺は万人に愛されるような人間性を持ってはいない。どちらかというと不都合や面倒を撒き散らしながら進むような男だ。排気ガスを撒き散らしながら往来を占拠する一昔前のアメ車のような存在。そういう厄介者を「それでいい」と認めてくれる人達がいるからこそ、文章や写真を生み出し続け、生き続けられる。このことを誕生日が来るたび忘れないようにと心に刻み続けている。

恥の多い生涯を送って来ました。

もし人に遺す文章を書くことになってしまったら、この言葉は外せないだろう。ただ、この一文を書く時が出る限り遠くにありますようにと、今は切に願っている。

これからも様々な恥をかくだろうけれど、どうかどうか、この愚か者の生み出すものを見ていてほしい。これからもよろしく頼む。

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