得点者
後半23分 カカウ(C大阪)
死力を尽くして、チーム全員で戦っていることは誰が観たって分かった。だから魂が震えたし、声も枯れそうな勢いでがんばれ、もう少しと叫び続けられた。試合終了の長い笛、笑顔の選手、サポーター。サクラ満開が流れ、歓喜の輪が広がる。その片隅で俺は人目もはばからずに泣いた。
みんながみんな、いつも以上に動けていたし、がんばっていた。ただがんばっていただけではなくて、キチンと動けるだけのロジックはあったように思う。浦和には何度も攻め立てられたが、最後の最後で持ちこたえたのは、このロジックのおかげだ。
試合を振り返る前にスターター、一度見れば台所が苦しいのがよく分かる。ディエゴ・フォルランはベンチにもいない、代わってベンチ入りしたのは負傷明けの藤本康太だが、まだ完治には至っていない。2トップは杉本健勇とカカウで、後のメンバーは前節と変わらず。
カカウ以外は全て同じメンバー、同じシステムだったが、名古屋戦よりはやりたいこと、しなくてはいけないことがキッチリと整理されていた。
浦和は守備時5-4-1、攻撃時4-1-5、ないしは5-0-5という特殊なシステムを組んでくる。以前は4-1-5の1をしっかり捕まえられれば相手の程度攻撃の手札を奪うことができていたけれど、今の浦和はマンマークしようにも選手が流動的すぎて捕まえづらい。
例えば、今回悩まされたのはストッパーの森脇良太と槙野智章が起点となって仕掛けていた逆サイドのウイングハーフへのサイドチェンジだ。
以前はサイドを上がる程度のオプションだったストッパーが、セレッソの作るブロックの外にいる逆サイドハーフへのボール供給源になっていた。これを通されるとブロックごと振り回されるし、セレッソのサイドバックのウィークポイントである守備の脆弱性がモロに出てしまう。
そんな中でも、セレッソは最後の最後まで走りきれた。がむしゃらに動くのではなくて、体力の無駄遣いをしない、ペースを乱されない工夫があったからだ。
攻撃時、いつもなら両サイドバックが一度に上がるところを、片方のサイドは自重するようになった。その代わり同サイドのサイドハーフは中にはいりながら前に出ていく。
サイドの酒本憲幸や丸橋祐介がストッパーの裏に出られれば、杉本健勇の高さに合わせるという形ができる。時にはその杉本自身もサイドに流れてストッパーの森脇を釣り出す動きを盛んにしていた。
こうすると浦和の守備時のシステムである3-6-1に3-4-3で応えることになり、システムがガッチリとかみ合うことで、浦和を「動かす」ことができる。遅攻の時は扇原貴宏が下がって両サイドが上がる3-3-2-2にもなったし、カウンターの時はフォワードと南野拓実が絡む形でシンプルで効果のある攻めができていた。決して前プレだけの単調な攻めではなかった、攻撃時も守備のリスクマネジメントがきちんと出できていたということだ。
それでも、ロングボールの質、受け手の動き出しのうまさ、受け手をサポートする動き、クオリティの高い浦和の攻めを完全に弾き返すまでには至らなかった。ロジックの上にある精神的な強さや判断力、冷静さを欠いていたら、スコアは逆でもおかしくなかった。
今日のマン・オブ・ザ・マッチは、この苦境にあってクリーンシートの立役者となったキム・ジンヒョンだ。再三のキックミスにはハラハラさせられたけれども、セービングでは神がかったプレーを連発した。何度浦和攻撃陣が天を仰いだか。
守備の奮起に攻撃が応える。ここまで散々ストッパーを釣りだし、守備ラインに穴を作っていたが、後半22分にここにカカウが見事なシュートを通して1-0、降格圏のチームが首位を独走するチームから先制点を奪った。
この歓喜の後も、臆病にならず、攻撃的な守備を継続して続けられた。キム・ジンヒョンの好調と浦和の決定力不足も相まって、3枚のカードを早々に使い果たしてまで勝ちに来た浦和を、長居で撃退することに成功した。選手交代のタイミングを見計らった大熊裕司監督、少しでも時を進めようとゆっくりと戻るカカウと長谷川、それにキム・ジンヒョン、大ピンチにゴールライン手前でボールをかき出した酒本、それにベンチにいる全員が勝利を願い、できることを成した。マリーシアなんて似合わない不器用なチームが、泥臭く勝利に固執してくれた。
後半24分 |
後半45分+2 |
この勝利はダービーから続いた自らへの不信を消し去る何よりの良薬になったはずだ。降格圏は脱したものの、16位大宮との勝ち点差は僅か1と、苦しい状態に変わりはない。それでも前を向いて、やっていることに間違いがないと信じてプレーができる。このテンションを維持できれば、きっと結果はついてくるはずだ。
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