熊本を愛する人、ロアッソを愛する人にとって、この日は祝祭の日であり、同時に新たなステップへと踏み出す第一歩になる日だった。
それだけに、ロアッソサポーターの気合いの入りようは並々ならないものだった。
「今のはカードやなかとが!」
火の国の男の血がさわぐとばかり、スタンドからでも審判に食ってかかる人もいた。選手だって同じ気持ちだったろう。球際の強さ、ガッツは他のどのチームよりも秀でていた。
ただ、彼らが置かれた環境はとてもスポーツに専心できるものではないし、未消化の試合を詰め込まれた関係で日程も過密だった。それに加えて早い時間での逆転があった事で、セレッソは過去類を見ない素晴らしい結果を得られた。
スターター
GKキム・ジンヒョン、DF右から松田陸、山下達也、田中裕介、丸橋祐介、MFダブルボランチに復帰なった山口蛍とソウザ、二列目右から清原翔平、ブルーノ・メネゲウ、杉本健勇、FW1トップにリカルド・サントス。
リザーブは丹野健太、藤本康太、山村和也、関口訓充、田代有三、玉田圭司、澤上竜二。
前半
この試合で一番やってはいけない事は、先制点を与えて相手に勢いを与える事だった。セレッソは誰しもが注意すべきこの序盤に、ショートコーナーで目先を変えられ、薗田淳のヘディングでゴールを許す。
普段ならここでバタつくところなのだけど、この試合ではなんとか立て直す事ができた。早い時間で清原が同点弾を押し込み、反撃の狼煙を上げる。
追い風は続く、続く時間帯でリカルド・サントスがうまく裏抜けしてPKを誘い、先制点を奪った薗田を前半25分で退場させる。完全に後ろからのプッシングなので、弁護のしようがないけれど、だからと言ってアレがレッドカードかと言われると微妙だ。この一枚のカードと一人の選手の退場、そして1点のビハインドによって、熊本は後押しの声援に応えられなくなっていく。
対するセレッソは山口とソウザのダブルボランチがうまくハマった。相手が10人になったことでシステムが4-4-1のようになり、こちらの泣き所であるセンターバックとボランチへのプレッシャーが緩和されたのが重たる理由。ただ、それを差し引いても、動き回って相手を追い込む山口と、危険なゾーンを埋めるソウザのコンビネーションは小気味いいものだった。
ボランチがしっかりしていれば、攻撃陣も後顧の憂なく前を向いて仕掛けられる。休養十分のブルーノ・メネゲウの推進力も素晴らしかったが、清原と杉本もそれぞれの役割を全うしていた。ボランチ、サイドハーフが絡んだ三角形で局面を打開する形が何度か見えるようになった。
前半にはリカルド・サントスが飛び出しから3点目となるゴールを決めている。鈍重だと酷評されていたけれど、タイミングよく飛び出せば、裏抜けだってできるのだ。
後半
後半も2ゴールを加えて今季初の5ゴールとなるのだけど、語るところは少ない。杉本のゴールが素晴らしかったこと、センターバックから左サイドバックに回った田中がよいオーバーラップを見せたことなど、局所的には記すものはある。けれどこの時点で熊本は心身が疲弊しきっていて死に体だった。なので、他の相手、例えば首位を走る札幌に対し同じことができるかは大いに疑問だ。
得られた事というと、中盤の構成がいかに重要であるかを学べた事だろうか。
守備が落ち着けばチームが落ち着く、こちらが主導権を握って動いているので磨耗が少ない、そうすると相手から先にガス欠を起こす。この流れが安定して出せればと願う。これからタフな夏場をむかえるので、盛夏となる前にこれを「当たり前」と言えるようにしたい。
熊本に関して
今回の試合では、早い時間に退場者を出してしまったので「何がしたかったか」を確かめることができなかった。
それでも、個々人がなんとかしよう、流れを変えようと奮闘している様子はうかがえた。これが無ければどんなにいい戦術を取り入れても前進しないし、サポーターの期待に応えることはできない。後半はさすがに戦意を失っていたけれど、これからの試合、地元熊本で、熊本の人たちとともに戦えるのはとても大きい。
昨日の試合にしても、どれだけ失点しようがサポーターたちの熱量は落ちなかった。むしろ、自分たちがなんとかしてやるんだという気概すら感じた。これは今まで対戦した全てのJクラブと比較しても別格、スペシャルなものだ。
その熱量をエネルギーとしてこれからのシーズンに当たって欲しい。試合前、熊本県知事は「震災から復興するだけではない、飛躍をしていくのだ」と熱く語っていた。スポーツにおいて、そのシンボルになりうる存在はロアッソ熊本以外にはないのだ。県民とチームが一体となる機会だと、懸命に駆け抜けていって欲しい。
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