完勝とは言わない、苦しいタフな試合だった。でも、だからこそ勝てた。相手が鹿島だからこそ、セレッソもまたベストな、素晴らしい緊張感と集中力を96分間維持できた。Jリーグでも、夏の酷暑の中でも、これだけ素晴らしい試合ができるのだ。それは幸せなこと。
スタメンとベンチはキム・ジンヒョンが抜けた以外はベストメンバー。前節前半のみで退いたアドリアーノも先発出場を果たしている。
鹿島はここ3節勝ち星から遠ざかっているとはいえ、昨季三連覇を達成した「勝ち方を知っている」チーム。今季もホームでは無類の強さを誇り、ここまで負けなし。この試合も立ち上がりから正確なパス、効果的なランニングでセレッソを苦しめた。
印象に残っているのは興梠、小笠原、そして今季初スタメンという左サイドバックの宮崎。興梠の速さ、ウマさは何度見ても恐ろしいものだし、宮崎の運動量も試合を通して驚異だった。
そして小笠原。とにかく嫌なところにポジションをとり、測ったように正確なパスを出す。ボランチとしての強さもある。この3人を止めるのは容易ではなかった。正直なところミスに助けられた場面もあった。
前半15分までの鹿島はとにかく点を奪い、試合のイニシアチブを取ろうと仕掛けてきていた。キーポイントはここだった。そこを凌げば光明は見えてくる、それはわかっていた。ここまで鹿島に屈してきたチームは、要所要所でこの仕掛けに耐えられなかったのだろう。
しかしセレッソは逆にカウンターを繰り出すなどして応戦した。鹿島にはロジックがあり、セレッソにはそれが無い。理屈抜きに、常識に縛られずに、自分のサッカーをする、それがセレッソ。前半最もゴールに近かったカウンターから家長、乾、丸橋と繋いでクロス、ファーから詰めていた清武のヘディングシュートはこの時間帯に生まれている。DFの足にほんの僅か触れてポストに嫌われたが、効果的な崩しだった。
そう、この試合に参加した14人のプレーヤーは、全員が全員、今季一二を争う出来だった。前半の後半、守備に傾倒するあまり攻めに対する意識が薄れ、パスワークが雑になるところがあったが、それ以外に責める場所がない。特に守備陣の集中力は素晴らしいものだった。
献身的にDFギャップを埋めるマルチネス。味方と連動してスペースを埋め続け、シュートでプレーを終えようと徹底していたアマラウ。冗談ではなくて、本当の話。上本も相変わらず体をはったプレーで大迫を封じていたし、茂庭の安定感もいい。野沢に殆どいいプレーをさせなかった。前半0-0。スコアは動かなかったが、なんと濃密な45分だったろうか!
後半、セレッソはプレーを修正して入ってきていた。パスの精度を上げること、キッチリ繋いで崩す。指示はハッキリしている、後はそれを実践するだけ。今のセレッソはそれができる。
唯一のゴールシーン、決勝点となった乾のシュート、それに至る流れはその意識がはっきり出ていた。乾、家長、高橋の早いパスワークで鹿島の動きが止まり、乾が抜け出すに十分なスペースが生まれた。角度のない位置、普通なら中に折り返すところでも思い切りよくシュートを放った。規格外、理論理屈の外にある選択をとり続けることで、鹿島の常識とゴールネットを揺り動かした。
スコアが動いたことで、鹿島の交代を後手に回すことには成功したが、消えていた大迫、フェリペガブリエルに代えて試合の勘所を知る本山とスピードのある佐々木、気味の悪い二人だった。実際一度佐々木に左サイドを崩されて、あわや失点というところまで持ち込まれてしまっている。アマラウと高橋が中に走りこんだ興梠をサンドしてシュートミスを誘っていなければ…。
対するセレッソはこの高いテンションを維持するために疲弊した選手を下げる。1トップとして走り回っていたアドリアーノに代えて小松、後半26分。
後半26分
相手の攻めが自陣右サイドに偏ってくると藤本を投入し、変則の3ボランチを組む。
後半38分
ここも耐えて凌ぐ時間だったが、無駄に自陣に張り付いていても勝ちは見えない。隙を突いて乾が上手く相手陣内に侵攻、相手のブロックを押し下げる。鹿島にすればさぞ歯痒く感じただろう。
最後にピッチに立った播戸も、何を求められて送り出されたのかをよく理解していた。ボールを持てば全力疾走でライン際を駆け上がり、相手陣内で孤軍奮闘キープに専心、アディショナルタイムを削る。最後はフリーキック、コーナーキックを全員で(レヴィー・クルピと白沢通訳までピッチに飛び出して!)防ぎ、難攻不落の赤壁を落城させた。
後半47分
中二日、中二日できた酷暑の3連戦、1-0、4-1、1-0。何の文句をつければいいだろう。心配されていたキム・ジンヒョンの抜けた穴も松井が完全に埋めている。今日も野沢の決定的なシュート(ラストパスはたしか興梠!)を止めた。ここから先、(残念ながら)ナビスコ杯の無いセレッソはリーグ戦に集中して臨める。藤田社長が開幕時に目標とした賞金圏はおろか、ACLまで見えてきた。しかし慢心はすまい、セレッソがつまづくのはこの厄介な石ころからだから。これからの一試合一試合を大切に戦おう。
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