後半24分 アドリアーノ(C大阪)
後半35分 ヴィトールジュニオール(川崎)
今日のマンオブザマッチはレヴィー・クルピだ、間違いない。引き分けすら許されない上位争いの真っ只中で、しかもアウェーで、劣勢で、あの手を打つなんて指揮官はそういないだろう。長くチームを見てきた当人だからこその発想かも知れないが、後半の選手交代には舌を巻いた。試合後のインタビューに応えるレヴィーの顔は、とても満足気だった。
スタメンとベンチは丹野をのぞいて前節と変りなし、高橋の怪我が気になるが、酒本が例年通り秋になって調子を上げてきたのが救いになった。
前半はスコアの移動こそ無かったが、これぞ天王山という緊迫感が終始途切れることがなかった。それでいてお互いシュートシーンが多く、第三者が観ても見応えがあった45分だったのではないだろうか。2分に一度はシュートが放たれるのだから心臓に悪い。
決定機の数は、明らかに川崎だった。小宮山からの折り返しをジュニーニョ、フィニッシュの精度に助けられる。ショートコーナーからの混戦でシュートの雨を浴びるも、ここは復活したキム・ジンヒョンのスーパーセーブで耐える。もしキム・ジンヒョンが前節のように自信無くプレーしていたら、試合は前半30分までに決まっていた。
対するセレッソのシュートは精度を欠き、驚異になり得ない。家長が二度ミドルを放つも枠外、唯一光ったのは丸橋の左サイドからのクロスに見せかけたミドルのみで、これはかつてセレッソのゴールを守った相澤の好守備に阻まれる。
スタッツだけ見ればほぼ互角と言えたが、このままの流れが続けば先に決壊するのはセレッソの守備だったはずだ。中村憲剛のパスワークに振り回されてボールを奪えず、逆にマルチネスは日頃はありえないようなボールロストでピンチを演出していた、危険な状態だった。
この状態を打破したのは、レヴィーの意外すぎる、奇策ともとれる選手交代だった。前半カードを一枚貰っていたアマラウを下げて小松投入。家長が一列下がり、4-2-2-2にシステム変更。窒息しそうだった3シャドーから家長のポジションを下げることでボールの出し手がひとつ増え、小松が入ることでトップにポイントが一つ増えた。川崎はこの変更に即座にアジャストできなかった。そこにギャップが生まれた。
後半開始時
小松はアドリアーノと共に相手守備ラインを刺激し、試合の流れを劇的に引き戻した。足元にボールを受ければ187センチの体躯を折り畳み、長い足をディバイダーのようにふるって相手を抜き去る。右から、左から、プレーの幅が広い小松の特徴が遺憾無く発揮される。
後半12分には待っていた歓喜の瞬間が訪れる。右サイド深くに張り出した酒本がフリーでボールを受けると、最高のクロスが川崎ゴール前に供給される。飛び込んだのは流れを変えた小松。今度はその長身を思い切り伸ばし、ボールの角度をずらす。さすがの相澤も反応が遅れ、ボールはネットを優しく揺らした。1-0、采配ズバリのベンチはお祭り騒ぎ。
先制点を奪えたことでカウンターの鋭さに長じた川崎の攻撃を鈍化させることができた、またこちらは茂庭、上本が中心になって弾き返したボールをカウンターに持っていく得意のパターンに持ち込めるようになる。これは大きかった。
2点目は攻め急いだ川崎の不用意なボールロストと、アドリアーノの驚異的な身体能力が生み出したもの。アドリアーノがセレッソ陣内でボールを奪うと、前にはとんでもなく広大なスペースとゴールキーパー、そして川崎ゴールしかない状態。ヴィトールジュニオールがしつこく食い下がるもスピードでこれを難なく振り切り、50メートルを独走してゴールを奪った。この2点目も大きかった。
しかし2点のアドバンテージを奪った辺りから川崎のプレーが露骨に激しくなってきた。勝たなければアジアに向かうことはできないというのは相手も同じだから、それを批難することは気が引けてしまうが、それでも傷つきピッチに突っ伏す選手達を見て冷静にはなれなかった。
特にヴィトールジュニオールは膝を上げてキム・ジンヒョンと競り合いに入ったり、清武の突破を止めるために腕を掴んだり粗相が過ぎる。清武は半袖のユニフォームだったが、もし袖が長く、体全体を引き倒されていたらどうなっていたか?
それでも2点あればセレッソは勝てる。混戦からヴィトールジュニオールに至近弾を決められたが、逆に1点差になったことでチーム全体の意思がまとまった。ベンチもバランスを崩さず、ゲームを壊さないよう慎重に手を打っていく。前半から頑張っていた清武は失点直後に下げ、スピードと個の力を持った永井が登場。もう以前のようにシチュエーションに背いて独立独歩のプレーはしない。チームの一員としてフォアチェックに走る。
後半36分
そしてロスタイム間際のセットプレーでは藤本が守備陣に加わり、高さと強さでメンバーを鼓舞する。アドリアーノ、家長、マルチネスがボールを持てば相手をひらりとかわして焦燥感をかきたてる。これが今年のセレッソ。ピンチもキム・ジンヒョンが落ち着いてセーブし、長いホイッスルを聞く。
後半ロスタイム
残り3試合で最も厳しいと見られていたアウェー川崎戦。チームはアウェー鹿島戦に匹敵するベストなプレーで勝ち点3を積み上げた。ただし、まだアジアへの扉は開かれていない。この事実を胸に気を引き締め、残り180分間を戦い抜こう。湘南にJ1土産を献上する必要はないし、磐田に末節を汚されるのもゴメンだ。
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