9/22/2005

「サッカーも面白いですよ」

 長居での試合の帰り道、娘を連れた私はバスが来るまで30分以上ある事を確認すると、娘がぐずってはいけないとタクシーを呼び止めることにした。

 程なくしてつかまったタクシーの運ちゃんは年のころ50代といったところ、短く刈り上げた髪の所々に白髪が混じってはいるが、福々しい顔をした気さくな人だった。私と娘が着ているレプリカをバックミラー越しに興味深く見つめている。

「それ、どこのユニフォームですか?」

「えっと、セレッソ大阪というチームのユニフォームです。Jリーグの」

 それを聞いて運ちゃんはああそうかという風に一度うなづいた。

「いやぁ、私ゃ全然サッカーは知らんもんでね、判らんかったんですよ」

「いや、そんなもんですよ、地味なチームですし」

「サッカーは、ほら、チーム沢山あるでしょう?あれが覚えきれんで…」

「全部覚える必要なんて無いですよ、おらが町のチームを応援すればいいんです」

「そんなもんですかねぇ」

 話を続けていくうちに、運ちゃんは野球ファンで、サッカーに対してあまりいい印象を持っていないことが判った。曰く

「Jリーグできたときにカズやらラモスやら、派手にやったでしょう?あれが気にくわんでね」


 カズがダンスをするのは別に格好をつけているわけじゃない、サポーターに少しでも喜んでもらおうとはじめた事。ラモスだって、別にいつもあんな調子で、別段どうというわけではない(最近柏のコーチになってから露出が増えたけれど、やっぱり変わっていない)

 でも、表層的に見ている人には、それが判らない。そういったいきさつを話そうかと思ったけれど、オフラインの時まで所構わず揉めるのもどうかと躊躇した。

「サッカーも面白いですよ」

 結局、運ちゃんにはその程度の事しか言えなかった。


 関西、特に大阪は野球というか、阪神の信奉者が多い。試合のある日の梅田はハッピにメガホンというスタイルの老若男女が行き交う。

 この客がちょっとでも長居や、万博や、ウィングや、西京極にくれば良いとは思うけれど、特別野球が憎いとは思わない。

 ただそうした人達が、ぶらりとスタジアムに来た時、私は彼等に「サッカーも面白い」事を知ってほしいと思っている。もし声をかけてくれたら、いろいろと話がしたい。サポーターもチームの一員であり、チームが観客の増加を望んでいるのなら、私達だって、そうした役目を果たすべきだと思うのだけれど…。




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