どこまでも続く工業地帯と、時代に取り残されたようなノスタルジックな風景の中に、蔦に覆われた建物が見えてくる。それが本城陸上競技場、ギラヴァンツ北九州の本拠地だ。
将来小倉駅のほど近くに近代的なサッカー専用スタジアムをオープンさせる予定で、このスタジアムにはお金が殆どかけられていない。屋根もほぼ無い状態で、メインスタンド以外は盛り土とコンクリートでしつらえた簡素なもの、掲示板も手動式という徹底ぶりだ。ここにくると否が応でも「J2に来たのだ」と実感させられる。
そこでセレッソは「J1のサッカー」をしようと試みた。組織的に攻め、守り、テクニックを駆使して戦おうとした。
非常に無謀な試みだということは現地にいた人間ならすぐに分かるだろう。九州の強い太陽がさんさんと照りつけ、観戦しているだけでも目が眩んだ。望遠レンズをのぞいてみると陽炎のような揺らぎさえ見えた。
前線は変らずディエゴ・フォルラン、カカウ、パブロで構成されていて、前からのプレッシングは期待できない。中盤から後ろは少しでも相手の攻撃を減速させようと高めのラインを設定していた。この矛盾する構成と天候の中では、守備陣がスタミナ切れを起こすのは明白、それよりも早くにセットプレーで2点をリードできたことは幸運だった。
「その時」は後半早々におとずれた。前線3人の守備が淡白さを増し、ギラヴァンツの選手たちは一度フェイクを噛ませれば容易くフリーになることができた。そこから正確なパスを出されれば、守備陣は厳しい立場に立たされる。磐田戦後半のような残酷な時間帯が延々と続き、キム・ジンヒョンのセービングに助けられることも多々あった。
違いがあったのはそこからで、パウロ・アウトゥオリのカードの切り方には明確なメッセージがあった。得点王、フォルランアウト、関口訓充をピッチに送り込む。
恐らく、パブロやカカウを下げた方がチームのパフォーマンス低下は低かったろう。しかし、チーム全体の運動量を維持するのだという考えを、選手たちにインパクトのある形で伝えるのであれば、「エースを下げる」以上の方法はない。
後々に送り込まれた楠神順平(パブロアウト)と関口の二人は期待に応えよく走り、北九州のボールの出どころを潰してくれた。
それに、ほんの僅かの時間しか与えられなかった玉田圭司が、その中でも3点目の起点となる結果を残したことが大きい。監督に対してのメッセージになればと切に願う。今日途中交代で投入された彼らは決してベンチを温めるべき存在では無い。
監督という職業は孤独で、敵も多く、だから考えを無闇に変えようとはしない。それは、分かる。ただ、讃岐戦、この北九州戦で結果を出し続けている関口、楠神、玉田の3人には今以上のチャンスを与えて欲しい。少なくとも今の時点で、最もチームが機能する組みわせの中にはこの3人が含まれているのだから。もっと得点を、さらに激しい守備を、そして、勝利を重ねていこう。
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