後半30分 キム・ボギョン(C大阪)
デザイナーとアーティスト。多くの人が同じような立ち位置だと思っているだろうが、実は大きく違う。デザイナーは人の希望を叶えるスペシャリストであり、アーティストは人の希望を超えるスペシャリストなのだ。
今年の川崎は非常によくデザインされたチームだと感じた。高い位置からの守備が効果的で、セレッソは終始押されっぱなしだった。
これは崩すのが容易ではないと感じた、その守備を崩したのは、アーティストのワンプレーだった。
自らペースを崩したセレッソ。
スタメンとベンチ。ナビスコカップ磐田戦メンバーから黒木が抜け、扇原が復帰、山口螢とダブルボランチを組む。古巣との試合に臨む横山はベンチスタート。
試合開始時 |
試合開始早々のコーナーキック、清武かドンピシャで合わせるも僅かに枠外。その後も攻撃陣がよく働いたが、前半10分頃からにわかに雲行きが怪しくなってきた。
開幕して3試合目、ナビスコカップを含めて4試合が経過したが、3シャドーの連携があまり良くない。
原因が選手間の相性によるものなのか、ブランキーニョのミスマッチによるものなのか、はたまた清武の不調によるものなのかはわからない。しかし、去年なら確実に繋がっていたショートパスが少しずつずれていて、相手の密集を抜けられない状態が続いている。
対する川崎はこの試合まで今季まだ無失点、前線からの守備意識が非常に高い。相手の意識の高いゾーンでミスやズレが起きるので、ありえないボールロストが非常に多かった。
そこからのショートカウンターは非常に危険で、山瀬、小宮山、そして小松らが強烈なアタックをしかけていた。
もし小松が好調だったなら、そしてセレッソ守備陣(茂庭、藤本、山口螢)の連携がとれていなければ、この時間帯で何点か奪われていてもおかしくなかった。
セルジオセレッソの守備。
やり過ごせた理由の一つが、今年のセレッソの守備システムにある。
去年までは両サイドバックが高い位置をとり、アンカー役のボランチも固定できなかったため、カウンターを食らうと茂庭と上本の頑張りに期待するしか無い状態になっていた。
しかし、今年のセレッソはどちらかのサイドバックが上がると、もう一方がバランスをとり、比較的低い位置で留まるようになった。またアンカーとして山口螢が成長、非常に広い範囲をカバーできるようになった(詳しくはこちら)
この試合でも前半の危ない時間帯、山口螢がボールホルダーをディレイさせ、味方が帰陣する時間を作っていた。そのため茂庭、藤本は前を向いて相手の攻撃を防げる、これが大きい。アディショナルタイムでの小松のシュートはキム・ジンヒョンがブロック!
川崎の攻めあぐね。
川崎はこの試合どの選手もよく動き、セレッソのパスをことごとくカットしていた。ビルドアップも的確で、ポゼッションやシュートの数は圧倒していた。前半も後半も、殆どの時間が川崎のものだった。
ただ、守備を崩しきってのシュートは数える程だったように思う。
セレッソの目線から見ると、決定的なパスを出せる中村憲剛の攻撃参加が少なかったのは助かった。またレナトがジュニーニョのように個で何とかするタイプのプレーヤーでないのも。
もう一つ崩されていたら確実に決められていた、というところで淡白なシュートで終わることが多々あった川崎。守備意識と全体のバランスに気をとられるあまり、攻撃での「冒険」が少なくなってしまった、ということはないだろうか?
これは川崎だけに起こっている問題ではない。セレッソも開幕から4試合で4得点と、攻撃陣のタレントを見れば不満の残る結果しか残していない。攻守のバランスをどうとっていくか、「仕掛ける」場面をどう作っていくかはセレッソにも共通した課題だ。
アーティストの閃き。
攻めつづける川崎、綱渡りの守備でゴールを割らせないセレッソ、その流れを変えたのは一人のアーティスト。後半29分柿谷登場。
後半29分 ブランキーニョ→柿谷 |
その直後のプレーで清武と息のあったパス交換。一気に左サイドを突破すると深い位置から柔らかなクロス、これが逆サイドから突進してきたキム・ボギョンにピタリと合ってゴール!
セレッソも攻撃はセットプレーからの清武、藤本。流れの中でキム・ボギョンの突破、そのこぼれ球をケンペス。この三つくらいしか見るところが無く、この試合に限れば川崎以上に重症だった。その中で柿谷の確かな技術と広い視野、攻撃的な意識は貴重だった。
このキム・ボギョンのゴール以外でも、確実にボールを保持し、最適なプレーを選択し続けた柿谷。このクオリティが維持できるのであれば、3シャドーの一角を脅かす存在になり得るだろう。本当に有難いことだ。
逃げ切りに成功も…。
スコア上は0-1のまま、セレッソが逃げ切りに成功した形になった。ただキム・ボギョンの得点から試合終了までのおよそ20分間には、実にいろいろなことが起きた。
まず清武がガス欠を起こして村田と交代している。
後半40分 |
清武は五輪代表の合宿での怪我から、ずっと不調が続いている。3シャドーを組むブランキーニョ、キム・ボギョンが前に出ていくタイプで、リンクマンとして黒子に徹していることもあり、この試合でも立ち上がりのヘディング以外はシュートは一度きりだった。
得点のシーンでは柿谷とのパス交換でらしさを見せたが、彼の復調が成されなければ、セレッソはこの試合のような胃の痛くなる試合が続くだろう。
そして後半ロスタイムには守備の要、藤本が2枚目のイエローで退場。
後半45+4分 村田→山下 |
次節は開幕から連勝を続ける仙台が相手。堅い守備もさることながら、今節では大宮相手に4得点をあげている。トップには高さのある赤嶺がおり、藤本抜きは非常に痛い。
それでも、毎年開幕出遅れるのが慣例化していたセレッソが、3試合を2勝1分、勝ち点7で切り抜けたのは大きい。
試合間隔が短く、非常にタフなスケジュールになっているが、次の仙台戦に勝てば首位も見えてくる。タイトル奪取を至上とし、「追球」を掲げたセレッソにとって、大事な一戦となるだろう。アーティストは、再び試合を決める閃きを見せられるだろうか。
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