5/25/2006

接吻。

 子供の頃から中身も見た目もヘビーなオタクでしたから、恋なんてしないと思っていました。可愛い子でも、というか可愛い子程、人を傷つけるのが得意なものですから、彼女達の持っている刃から逃げるように、それこそ隠れキリシタンのように絵や文章の世界に没頭していました。

「私はずっとこのままでいい」

 本当にそう思っていました。


 芸術系の大学を受ける為にその手の本を見ている時、一枚の絵に目が留まりました。ギュスターヴ・クリムトの「接吻」という作品です。僅かに覗く人の肌以外は目も眩むばかりの金色。この人がどんな気持ちでこの作品を描いたのか、受験を控えた凡人には理解が出来ませんでした。


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 うわべだけのテクニックで志望していた大学に滑り込み、大学生としてだらけた日々を送っていた19の頃、一人の女の子に会いました。衝撃でした。生まれて初めて恋愛というものをしました。

 それなりに身奇麗にしたり、いっちょ前にデートコースを調べたり、なにせ生まれて初めての体験ですから、それはたいへんな日々でした。でも、楽しい日々でした。付き合って5年後には、当たり前のように、夫婦になっていました。


 夫婦生活は苦難の連続で、大変な苦労を、たくさんたくさんしました。彼女を不幸の渦に引きずり込んでいるのではと思った事も、一度では有りません。これからももしかしたら、また苦労をするかも知れません。

 でも愛情や絆というものは、そんな風に打たれれば打たれるほど、強さを増していくのでしょうか。出会った頃よりも今の方が、彼女の事が、ずっとずっと好きだと、自信を持って言えます。


 昨日、久しぶりに「接吻」を見つめて、ようやっと二人が何故金色に包まれていたのか、理解する事が出来ました。この12年間欠けていた心のピースが、ようやっと埋まったようなこの気持ちを、どうやって伝えましょう。





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