前半45分+3 播戸 竜二(C大阪)
前半45分+6 香川 真司(C大阪)
原始のサッカーは祭事の一種だったと聞いている。その意味では昨日の試合は実に原始的だった。セレッソのプレースタイルもおよそモダンなものではなくて、近代的な神戸のスタイルに随分と苦しめられた。しかしそんなシチュエーションでさえシンジを送り出すための祝祭の一部だった。
香川ラストマッチの布陣は苦しいものになった。マルチネスに加えてアドリアーノもリタイア、1トップには播戸が入る。神戸にとっては因縁のあるプレーヤー。控えには前節に続いて清武が入り、黒木も戦列に加わっている。
前半は神戸の組織的な守備によく苦しめられた。序盤に一度、家長を中心としたカウンターが出来たが、これをモノにできないと、後は神戸の4-4-2、2ラインのディフェンスに四苦八苦という印象。
神戸は三浦監督の個性が強く出たチームだった。大久保がFW、ボッティがMF登録だったが、実際は大久保が左サイドのMF、ボッティがトップの位置にいた。素人目にも約束事がしっかりと決まっているのがよくわかる守備で、茂庭、上本の位置では楽にボールを保持できるが、羽田、アマラウに入った時からチェイスが始まり、途端にいい体勢でボールが受けられなくなる。セレッソはやむなく3シャドーが下がってボールをもらいに来るのだが、そうすると4-4のラインがキッチリと出来上がっているのでプレーが限定され、容易くボールを失ってしまう。
攻撃に関しては都倉の高さ、強さとボッティの上手さに頼りがちなので、そこさえ封じられれば何とかなると思っていたのだが、それでも自分のプレーを実行できるからこその都倉であり、ボッティなのだろう。
失点に関してもボッティの上手さが際立つ。なんでもない縦パス一本なのだけれど、トラップからヘデイングまで完璧な流れだった。
堅い守備の相手に先制点を許すと苦しい。相手は約束事を守り、守備に専心していれば相手が勝手にかかってくれるのだからさぞ楽だったろう。奪えば、とりあえず都倉に当ててそこから攻撃を展開すればいい。攻撃の際もリスクを考えてプレーしているのか、それともセレッソの守備を省みない総攻撃を見慣れているせいなのか、神戸の攻めに迫力は感じなかったが、こと守備に関しては苦しい様子だった。いつものような爽快感溢れる破天荒な攻撃が完全に封じられていた。息苦しいサッカーが延々と続いていた。前半45分までは。
この試合をつまらない理詰めのゲームから祭りへと昇華させたのは、熱いベテランの意地と、神童の強い精神力。強い個の力が神戸の組織を打ち破った。
まずは播戸。前半45分まで殆ど持ち味を活かしきれないでいた。好機を2度、フイにもしていた。そのもどかしさはあったはずだが、それをグッとこらえて、得点機を待っていた。前半ロスタイム。窒息しそうな左サイドから右サイドにボールが流れ、高橋が突破に成功。一部でも破綻すれば、途端に崩壊が始まるのが組織というもの。CBが播戸のマークを一瞬外してしまう。クロスは相手CBとGKの間、グラウンダーで、強く速く。これを播戸が気合で押し込む。まず同点!
閉塞感から開放され、セレッソの攻撃が一気に息を吹き返す。アマラウの突進がファウルを誘い、ゴール前絶好の位置でフリーキック。位置的には左足のキッカー(家長)が蹴った方が有利だったが、意表を突いて香川が右足を振りぬく。相手GK紀氏も左足と踏んでいたか体重移動が逆になり、防ぎきれなかった。前半ロスタイム、僅か6分間の逆転劇だった。長居はチェスボードから祝祭の空間へとその姿を変える。
後半は得点こそ生まれなかったが、実にセレッソらしい45分間だった。ノーガードの殴り合いこそ身上とばかり攻め立てる。セレッソが逆転したことで心理的に上位に立ったこと、これが一番大きいが、傍目から見て神戸側にも二つミスがあった。
一つは都倉を早々に下げてしまったこと。ポストプレーの質が悪かったという見方もあるが、上本や茂庭を持ってしても苦しんでいた都倉の高さが消えたのは、セレッソとすれば単純にありがたかった。いま一つはボッティを一列下げ、代わって大久保をトップに入れたこと。この二つの変更で、神戸は前線でタメを作れる選手がいなくなってしまった。
これで流れは完全にセレッソに移った。家長のタクトで前線が踊り、シュートの雨が降ってくる。香川が、乾が、ミドル、ループ。撃って撃って撃ち続ける。クロスもたらふく放り込む。
決めきれないのは大問題だが、昨日の試合に関してはなぜか許してしまえる自分がいた。セレッソらしい試合をして香川を送り出せる喜びが、シュートを決めきれない苛立ちを上回っていたから。もっとシュートを、もっと攻撃を、華々しく咲き誇れ。セレッソ大阪!
しかし夢の時間もやがて終わりの時を迎える。後半43分清武投入、下がるのは香川。せめて最後の奉公と、ピッチに倒れて時間稼ぎ。
後半43分
時間稼ぎは鹿島戦で経験済み、もう慣れたもの。相手コーナーでひたすら粘る。ベンチもカードは一枚ずつ切って、時間を使う。尾亦から石神、羽田から藤本。
後半44分
後半45分+2
勝っていてロスタイム、普段なら早くタイムアップの笛が聞きたいところだが、この試合だけは、その笛を吹かないでほしかった。ずっと香川といるこの時間を味わっていたかった。こんな気分は森島のラストマッチ、2008年の愛媛戦以来だ。背番号8との別れはいつも悲しい。
香川の置き土産によってW杯前を勝ち越して終えたセレッソ。次の課題はこの大きな穴をいかに埋めるか。清武がフィットするのか、違うシステムを試すのか。ナビスコ杯を無駄にしてはいけない。
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