7/07/2005

C大阪2VS0千葉 不思議の勝ち。

 あるスポーツで名将と謳われた者の言葉に

「勝ちに不思議の勝ち有り。負けに不思議の負け無し。」

 というのが有る。その人物がサッカーの見識を持っているとは思えないが、この試合を観たならきっとこう言うはずだ。

「これは『不思議の勝ち』や」

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 私はまずスタメンに驚かされた。3-4-2-1から3-5-2へ、右ウイングには苔口、ダブルボランチは下村とファビーニョが組む。そして西澤、黒部の2トップ。

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 驚きの次に沸き起こったのは不安。これだけのメンバーチェンジ、布陣の変更を行ってチームはチームとしての体裁をとれるのか。


 前半は残念ながらその不安が当たってしまった。不慣れなフォーメーション、メンバーに対して、オシムが手塩にかけたジェフイレブンが怒涛の猛攻を仕掛ける。目まぐるしく変わるポジショニング、圧倒的な運動量、正確なパスワーク。

 中盤、最終ラインがボールホルダーを捕まえようと奔走するのだが、どうしてもワンテンポ遅れてしまう。気が付くと完全に崩されているという場面が続出、今日は何点取られるのかという気分になった。試合開始から30分間のシュート数はセレッソ1に対してジェフ10。


 だが、フィニッシュのシーンで力んだか、シュートが枠を捉えない。吉田は一度ミスキックを犯したものの、この時間帯で失点をすることは無かった。


 こうなってくると少しずつ歯車が狂いだす。きっかけはジェフの新外人ポペスクからだった。個人としては非凡なところを見せたのだが、チームに合流してから比較的間もない彼は、前半30分過ぎから少しずつ、ゲームの流れから剥離していくようになった。

 それまでのジェフのサッカーを絵画に例えるのなら、それは最高レベルの作品だった。だがそれ故に、僅かの筆使い、色使いの間違いが全体を大きく狂わせてしまう。その狂いを最初に突いたのはファビーニョ、下村のダブルボランチだった。


 今日のファビーニョ個人の出来は来日以来最高だったと言っていいだろう。読み、プレーの正確さ、他の選手とのバランス、全てが高レベル。彼の細くしなやかな足が、隙を見せ始めたジェフのボールをするりと絡め取っていく。

 前半の終盤頃には、そのボールが直接ファビーニョから、若しくは下村を経由してようやく前線に押し上げられるようになった。セレッソが反撃の糸口を掴みだした瞬間だった。


 後半のペースも、やはりこの二人が作っていった。まるで何年もコンビを組んでいたかのような連携で、ゼ・カルロスに、森島に、西澤に、フレッシュなボールを供給していく。時には二人自身が攻め上がり、シュートで終わる。前半のジェフのような華麗さは無いが、泥臭く、力強く、セレッソらしい攻めが続くようになった。


 そして、歓喜の瞬間を生み出したのも、細くしなやかなファビーニョの右足。後半15分頃、ゴール前で釘付けになったジェフディフェンスを貫いたボールは、恐らくブラインドになってほんの少し反応が遅れた櫛野の指先を掠め、ゴールに吸い込まれた。1-0。


 オシム監督がこの流れを良しとするはずが無い。失点直後から僅か10分間で、交代枠3を全て使い切る大胆な用兵。その中にはポペスクもいた。


 小林監督も動く。攻守の繋ぎ役として惜しみ無く動き続けた森島を下げて布部を投入、スペースの出来たトップ下に決定的な仕事が出来るファビーニョを上げる。ファビーニョのプレーエリアは森島のそれほど高くは無かったので、この中盤の変更には幾らかの守備に関する意図も有ったかもしれない。

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75 min



 ここで、今までゲームに、チームに加われなかったストライカーが意地を見せた。同じく試合の流れに乗り切れていなかった苔口から、難しいボールが渡る。シュートエリアはほんの僅かだったが、そこをこじ開ける事こそ背番号10に与えられた最大の役目。投げ出すように伸ばした足先が僅かにボールの軌道を変え、貴重なダメ押し弾が生まれた。俺はここにいる。黒部はここにいる。地鳴りのような歓声は、彼がここにいるレゾンデートルたるに十分なものだった。


 この2点目でジェフの緊張の糸は切れ、試合の大勢が決まった。しかし、ここでアクシデント。試合を通じて激しくせめぎあっていた西澤とストヤノフのプレーがラフになり、一度両者に一枚ずつイエローカードが示された。

 ここまではよくある展開なのだが、その次の何でも無い接触プレー(それもストヤノフのスライディング)で、主審の奥谷が西澤に警告を与え、退場処分としたのだ。

 どうしてもひいき目になってしまうが、あれは明らかにカードが示されるようなプレーではない。事実ストヤノフは何のダメージも受けていない。仮にその前のイエローカードの時点で「次にこのようなプレーがあれば退場処分にする」という「宣告」が有ったにせよ、この処分には納得する事が出来ない。


 実に久しぶりの勝利だったが、この一連の流れが水を差してしまった。勝ち点3は得たものの、小林監督にとって頭の痛い課題が残された。

 まず次節出場停止になった西澤を含め、前3枚をどのような布陣、メンバーで臨むべきか。黒部が得点したものの、黒部、西澤の2トップは運動量に乏しく、予想通り森島への負担増、ボールポゼッションの低下を招いた。とりあえず次節をどうするのか、そしてその後どうしていくのか。

 右サイドも問題。この試合で起用された苔口の動きはあまり良いものではなかった。久藤、廣山、酒本など候補は多いが、はたして現在ベストなプレーヤーは誰なのか。途中出場した徳重も含めて再考すべきポジション。


 ファビーニョ、下村のダブルボランチとブルーノが作るトライアングル、これにゼ・カルロスを加えた部分はチームの骨子として十分。

 それだけでも大収穫なのだが、これに安定した攻撃力が加われば、上位を狙えるチームになれる。ツメの部分の甘さはセレッソの悪しき伝統だが、今度こそしっかりとしたチームを構築してほしい。



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