毎年、正月には映画を一本、観ることにしている。
去年は「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」を観た。少し重たい映画が好きで、サッカーが好きな俺、今年は「TESE」をチョイスした。
このブログを見ている人はサッカーが好きだと思うから、いまさらな話だが念のため「TESE」は日本に生まれ、川崎フロンターレでプロデビューした在日朝鮮人三世のサッカープレイヤー、鄭大世(チョン・テセ)のこれまでを追ったドキュメンタリー映画だ。85分と短いながら、非常に内容の濃い作品に仕上がっている。
在日一世で、朝鮮民族の誇りを強く持つ祖母と、その祖母の影響を強く受けた母に育てられた鄭大世は、日本に帰化せず、祖国である北朝鮮の代表としてピッチに立つ道を選ぶ。
しかし日本で生まれ育った鄭大世は、北朝鮮代表の中で打ち解けられず、苦しむ。
確かに北朝鮮は彼にとっての「祖国」ではある。しかし、そこで生まれたわけでも、育ったわけでもない国を「祖国」とすることの難しさが、彼を苛立たせる。映画のそこかしこで、神経質になったり、逆に過渡にテンションを上げすぎる彼の姿が見える。北朝鮮代表としての彼は、どこかよそよそしく、何かに急かされているように映る。
その一方で、彼を育てた「朝鮮総連」というコミュニティの中にいる彼は 非常に穏やかで、優しい目をしている。例えば母校の朝鮮学校を訪れた彼は、他では見られないほど、とても落ち着いている。
総連は国ではないが、彼を育て、アイデンティティを植えつけたのは、間違いなく彼ら組織だ。その意味では、鄭大世の変えるべき場所は半島ではなく、この日本の中にいるコミュニティということになる。
帰属するべき国家と、帰るべき場所が違うということがどれほど辛いのか。日頃の鄭大世が見せる明るい様子とはかけ離れた悲しい現実を見た時、なんとも言えない重苦しい雰囲気になる。
もしあなたがシンプルにサッカーを愛している一人で、かつこういう話題に疎いのであれば、少しだけでも準備をしてから、映画館に足を運ぶことをおすすめする。
この映画を話す時、あまり面白い、面白くないという基準で測りたくない。娯楽性は無いし、映像も特別にお金をかけているわけではない(鄭大世の祖母が「写真を撮っているのか?」と間違えたことから、恐らく動画機能を持ったデジタル一眼か何かで撮影しているのだろう)
ただ、現実を捉えた映像としてのみ、このフィルムの価値があるのだと、そう思う。
これが、この映画を見た「俺の」感想なのだが、生まれも育ちも生野区という家内は、少し違った感想を持った。とても興味深い話であるので、明日、書き記すことにする。
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